よくあること

ー概要

「よくあること」という言葉、皆さんはご存知ですか?年配の方が用いる常套文句ですが、妙な説得力で押し切られてしまうのがこの言葉の恐ろしいところです。たった6文字という一言にもかかわらず謎のインパクトを放っています。ネットで検索してもワード上位にのぼるほどホットな言葉ですが一体何がそこまですごいのでしょうか。

 

この言葉が成立するシーンに際限はありません。使用する場面としては、例えば「今日は雨だね。洗濯物中干ししなきゃ…あ〜あめんどくさいなあ」とこぼしてる人に「梅雨ではよくあること」と言えば大抵の人は暗示をかけられたかのように何の疑問も抱くことなく「ああー!そうか」と二つ返事で納得してしまいます。たった一言にもかかわらず恐るべき説得力を持っており、言われた側はそれとなく従うしかありません。異論を挟む余地もなく一種の詠唱ワードと化しています。

 

ーこの言葉が成立する前提条件

 

しかし、この言葉は一見すると便利なように感じますが、これが成立する1つの了解事項として、「この世は普遍的である」「人間とは絶対的な存在である」ことが前提に置かれます。「よくあること」社会通念上受け入れがたい犯罪行為や不倫などにもこの言葉の武器が通用するかといえばそうではありません。不倫をした人が記者会見で「なぜ不倫をしたのですか」と問われた際、「日本ではよくあること」と返答すればアンチに蜂の巣にされるのは間違いないし、下手すれば社会的な地位や名誉が失われるリスクだって伴います。まさに使い所が試される、諸刃の剣的な言葉なのです。

 

例えば、「株価が下がった。どうしよう…」と嘆いてるある1人の経営者に対して、「今の時代ではよくあること」と言えばどうなるか。この場合、株価暴落に対する1つの理由として「ロシアによるウクライナ侵攻」が挙げられますが、こういった不可抗力を伴う理由づけがされる場合は「あーそうなのかー。」と何の疑問も抱くことなく納得することが多いです。株価暴落とロシアによるウクライナ侵攻に何の関係性がないとは言わせません。今や当たり前のごとくほとんどの専門家が株価と戦争を紐付けて論じていますから。何か絶対的な前提条件の1つがあれば、「よくあること」という言葉の武器は通用します。これはマジです。覚えておきましょう。

 

最後に

 

「よくあること」は非常に便利な言葉です。自分にとって都合の悪いことのたいていはこの言葉で解決できちゃいますからね。しかし、あくまでも「それを裏付ける絶対的な前提条件が存在する」ことがキモです。社会的・道徳的に問題のある行動のすべてを「よくあること」という言葉の武器で解決しようものなら、それこそ批判の嵐でしょう。不倫に良いも何もありません。ダメなものはダメなんです。ダメと明確に認識されている行為が「よくあること」で通用するなら、秩序もルールも法律も必要ありません。いくらでも後付け可能なルールが設定されるなら、日本はそれこそ好き勝手したい放題の犯罪大国になってしまうでしょう。まさに恐るべしですね。