スパルタの海

ー概要
 
スパルタの海とは、戸塚ヨットスクールの実態とありさまを描いたノンフィクション映画。アルバトロス配給であり、1度は1983年に公開されるはずだった映画を戸塚コーチや先生らの逮捕を受けてしばらく封印していた。それから28年後の2011年に晴れて劇場公開となり、戸塚ヨットスクールの知られざる実態が明らかにされた。
 
ー物語
 
通称ウルフと呼ばれる不登校児及び不良少年が、自宅にやってきた戸塚ヨットスクールの関係者を追い出そうと奮戦。2階の窓から飛び降り、そこに居合わせた戸塚スクールに所属する番外生徒(通称カッパ)に組み伏せられたが、なんとか振り切り再び出口から中に侵入。戸塚のコーチ及び生徒の3人がウルフを取り囲むように威嚇。ウルフは瓶を投げつけ、さらにライターでテーブルの布を焼き、ボヤを起こす。コーチと生徒による火消しの最中、裏手から回ったもう1人のコーチに取り押さえられ、ウルフは数回殴打された後、車に乗せられる。ここから戸塚ヨットスクールによるスパルタ指導及び生徒への体罰虐待の実態が描かれることになる。
 
ウルフは必死に抵抗するも規則として剃髪させられ、坊主にさせられた。翌朝、寝るときに使用したシュラフを畳むようコーチらに要求されるがウルフは聞く耳を持たず、さらにシュラフでコーチらを叩きつけたことからとんだ騒ぎに。その後、朝礼が始まり、訓練生リーダーであるカッパが点呼をとるが、ウルフは返事を一向に無視。極めつきは反抗的な態度を示したウルフをコーチは後ろから蹴飛ばし、海に落とした。厳しい朝の周回マラソンが始まり、元気がない、ポケットに手を突っ込む、足が遅いという理由だけで海に落とすか蹴り飛ばすの2択をとる。生徒の中には精神薄弱児も存在し、そういう生徒には一定の理解を示しているがそれでも体罰を辞さないのは同じ。
 
ここで昼食が入り、まるでビュッフェ形式のように生徒たちが真ん中にある鍋の中から食べ物を皿に入れる。その際、ウルフの同期生徒であった女子の明子がカッパに「サラダばかり食べるな」と嗜められ、やけを起こして皿を目の前に放り投げる。その後、カッパは「こいつ!」と言って明子を叩くがウルフがそれに反抗する形で水をカッパにぶっかけ、その一部始終を見ていたコーチらに何回も殴打された。その先も厳しい訓練が続き、戸塚校長が主導するヨットレースの練習に駆り出され、ウルフはボートに乗り込む。バランスを崩して海に落ちた生徒を棒で叩いたり突くなど、血も涙もないスパルタ教育の末、長時間練習が続けられた。
 
夜になると入浴の時間であり、ウルフは一瞬の隙をついて戸塚スクールを脱走。近くの交番に駆けつけ助命する。警察署に送られたウルフは刑事らに親子丼を振る舞われるが、脱走騒ぎを聞きつけた戸塚校長とコーチらは警察署の中でウルフを取り押さえ、「両親は承知してるんです!」と刑事を説得。だが、全治3週間の傷を負ったウルフの状態を見て刑事は戸塚校長を傷害罪で送検することを決め、保護者と刑事による面会が行われた。
 
ウルフの父親は終始黙秘を貫いたが、ウルフの母親は「自分たちが決めたことなので」と戸塚校長の無罪放免を訴えた。納得いかない刑事は保護責任がないとして両親たちを強く非難するが、父親がここで「ウルフをどうか学校に返してやってくれませんか」とトドメをさしたことで刑事は説得を断念。ウルフは再び戸塚スクールに連れ戻された。その際、戸塚校長とコーチらに警察に話したことを洗いざらい吐き出せと要求したことでウルフは「耐え難い暴行を受けて殺されそうになった」と白状。しばしの沈黙の後、コーチはウルフを「お前のいう耐え難い暴行というのはこういうことか!」と言ってウルフを虐待。その後も厳しい追及が行われた。
 
翌朝、相変わらず厳しい訓練が待っていたが、自分の限界に直面したウルフはやけを起こして暴れ回る。それを見た戸塚校長は口による説得は困難と悟ってロープを持ち出し、ウルフをぐるぐる巻きにして近くに停泊してある船に監禁。その後、食事係の1人である女コーチが食事を配膳するも、ロープが抜けてもぬけの殻になっていた。もう1人のコーチを呼び出すが、その後ろからウルフが思い切りコーチを何回も叩き伏せ、「殺してやる!」と明確な殺意を露わにする。しかし、すぐにコーチは反撃に転じ、ウルフをがんじがらめにした上で監視役もつけることに。
 
翌朝、戸塚校長とコーチらがウルフの様子を拝見。食事を届けにやってきたが、ウルフは反抗することもなく黙々とご飯を食べるだけだった。その素直な気持ちが芽生えたことを感じ取ったコーチらはウルフに対し一定の理解を示す。その後訓練が行われ、ウルフはコーチらに厳しい指導を受けるも以前のように反抗せず、身を粉にして訓練に挑んだ。この意欲的なウルフの態度がコーチとウルフのこれまでの溝を埋め、徐々に関係は軟化していく。
 
そんな折、昼食中に1台の車がやってきた。それはウルフと同じく不良少年を乗せた車であり、ウルフと同じ経緯で戸塚スクールにやってきたのだ。その少年の名前は岡村。岡村はあらゆる理屈を立て博識者のように話すが、その社会の甘さやルールの厳しさをまるで知らない岡村を見て校長は激昂。長話は途中で折られ、校長による執拗な暴行を受けることになる。その後はウルフと同じように訓練生となり、しばらくの間素直に従っていた。しかし、ここでまたも3人目の少年が割って入る形で戸塚スクールに属すことに。
 
その少年は精神障害を抱えており、入学費が安い戸塚スクールを選んだ両親らの希望で学籍を戸塚スクールに移すが、相変わらずコーチらによる体罰や虐待は続いており、まともに訓練の意欲を見せないその少年に対して暴行を加える。しかし、翌朝どうも様子がおかしい。ライトを当てて覗くと、そこには少年の青ざめた顔が。すぐに病院にいくも時すでに遅し。1人の少年の死亡が確認された。これを戸塚スクールによる虐待死との触れ込みで新聞やマスコミはこぞって報道。社会的な指弾を浴び、戸塚校長はすぐに警察署に連れ込まれる。そこで追及を受け事情聴取が開始。一応有罪は避けられたが、戸塚スクールが与えた社会的な影響は大きく、戸塚スクールにクレームの電話が何度も殺到。それに耐えきれず、校長の妻はコードをちぎって断線。「もうこんな仕事やめて!」と戸塚校長に詰め寄る。しかし、甘い根性で生きていける世の中なら苦労はせず、むしろ徹底したスパイシーな教育を施すことで生徒たちは社会的に自立ができ成長するという自分なりの哲学を説き、妻はその場で泣き崩れる。校長は意外にも子煩悩であり、娘の前では指導者としての威厳はない。
 
その後も相変わらずいつものように訓練が続けられたが、ニュースを聞いた岡村がチャリで下校中の女子を捕まえ、拉致騒動を起こす。包丁を片手に「早くヘリコプターを呼べよ!」と要求。里帰りしたいという欲求の強さから、ヘリコプターに乗って逃亡を図ろうとするもウルフに止められ、さらにコーチらによる実力行使でなんとかその場を収めたが、突然の出来事だったのでウルフは心臓の発作に倒れ、すぐに病院に搬送された。なんとか一命を取り留めたウルフは再び戸塚スクールに戻り、訓練を開始。
 
訓練生としてのハクがついてきたウルフは、もう里親のもとに返しても問題ないとの判断が下され、超久かたぶりに両親との面会を果たす。ウルフの母親は不安そうな顔をしていたが、礼儀正しい振る舞いを見せるウルフの態度に感極まって号泣。嫌いだった人参もすっかり食べるようになっていた。その後、ウルフは戸塚スクールに留まることを決意。その理由は、もうすっかり自立した大人であるという自覚の芽生えと戸塚校長ともっと一緒にいたいから、という2つが主だった。最後のシーンではボートに乗り込んだウルフと校長のちょっとした和むような会話が挿入され、太平洋を横断してやると高らかに宣言したウルフを校長は笑い、2人でボートを進める形で物語は終了する。
 
ー自己評価
 
どうしても戸塚ヨットスクールを美化している感が拭えない。そう思う方も多いだろう。ウルフによる両親への虐待は誉められたことではないが、人の道を外れた生徒たちを更生させるためには、体罰やスパルタ以外の方法がたくさんあるのではないか。エンディングでは楽しそうにボートを漕ぐ校長とウルフの姿が描かれ、どうもコメディタッチに帰結させることで戸塚スクールによる虐待の数々を白紙にしようとしていないか。「訓練した生徒は暴行を受けたのちに更生している」それだけに問題を矮小化していないか。どうにも煮え切らない終わり方でモヤモヤしているのだが、これでも戸塚ヨットスクールの実態を忠実に再現した模様。
 
しかし、本当の戸塚ヨットスクールはもっと生々しくひどいものであったのだろう。時代が時代であり、コンプライアンス上、スプラッター表現の自主規制がなされ、一部の生々しい虐待の描写はマイルドに抑えられた格好だ。それでも虐待による痛みがひしひしと伝わってきたので、そういう意味では教訓的な映画になるかもしれない。皆さんもぜひ1度は見てほしい。