はるヲうるひと

ーー概要

 

「はるヲうるひと」とは佐藤二朗監修の映画です。身体を売る遊女や接待に応じて性サービスを受ける顧客とのやり取りが描かれており、レーティングではR15と定められているため少し過激です。また、性接待のみならず、遊女たちによる強姦やレイプ、またその他経営者による暴力行為など、かなりデッドリーな内容に仕上がっています。15歳以上でも刺激が強いかもしれません。見る際にはそれなりの覚悟を決めてから見てくださいね。それでは詳細です。

 

ーー内容

 

隔離された閉鎖社会、原爆反対のスローガンを掲げ集会を開く老人たちの群れや、性接待をする遊女たちの姿など、時代は少しアナクロです。本土からやってくる連絡船を頼りに食物の調達をしているため、生活はかなり質素です。今でいう丸テーブルではなく卓上テーブルを周りで囲むという、時代劇を彷彿とさせるような描写があります。古そうな絨毯が敷かれてあったり、遊女たちによるメイクの仕方も時代を感じさせるものとなっています。

 

そして本作の特徴はなんといっても主人公が定まっていないことです。誰が主人公になってもおかしくないストーリーであるゆえ群像劇とも言えますね。ここでは一応主演を山田孝之さんに絞り、他サブキャストを交えたうえで解説をしていきたいと思います。

 

山田孝之演じる得太は「かげろう」という店の経営者の1人でした。仕事は主に遊女たちの世話。遊女たちには特段嫌われてる様子はありませんが、その「かげろう」を取り仕切る得太と腹違いの兄である哲雄からは憎悪に近い感情を抱かれていました。その詳細は後ほど明らかになります。

 

遊女たちは主に4人です。少人数での経営なので仕事は成り立つのか?と考えたのですが、閉鎖的な社会という設定なので仕方ない部分もあるかもしれませんね。そして客を呼び込むために得太は奔走していましたが、その日は1人も客を呼び込めず、そのままかげろうに帰りました。

 

すると、かげろうには兄である哲雄がいました。哲雄は「何人?」って聞くと、得太は「0人です」と狼狽えながらも答えたため、しばしの沈黙の後部屋を去ろうとする哲雄は急にそばにある暖炉に得太の両手を突っ込んで火傷を負わせました。その後の水洗いでも度々火傷が染みる得太。そしてことあるごとにタオルを顔にめり込ませて癇癪を起こすのでした。

 

その後、かげろうに常連客であるユウが性サービスを受けるべく訪れることになり、遊女の1人であるりりと相思相愛の関係になります。

 

一方、哲雄は愛人である峯(みね)とSEXをしていました。その様子を見ていた得太はショックを受けながらも哲雄に誘われるがまま、自宅で手料理を振る舞われます。そこには哲雄の愛する娘と妻がおり、得太に皮肉混じりに「まっとうってなんだっけ」と質問します。

 

そして黙りこくる得太に対し「感情のない虚(うつろ)」と罵倒してさらに「お前らや遊女は鼻クソ同然の存在」とたっぷりの皮肉をぶつけるのでした。哲雄と得太は義理の兄弟ですが、その間には兄弟愛というものは毛頭存在せず、それどころか過去の出来事をきっかけに哲雄は得太を激しく憎んでいました。

 

「過去の出来事」遊女の1人であるさつみは遊女2人に対しそれを恐る恐る聞くと、衝撃の事実が明らかになります。

 

哲雄と得太の父親は妾と正妻の両方と関係を持つ存在でしたが、ある日に父親と妾が部屋で心中しているのを哲雄が発見し、さらにその後哲雄の実の母親である正妻も心労でショック死。哲雄はその妾が遊女だったことを知り、そいつのせいで自分の母親が殺されたことを強く根に持っており、得太やその妹であるいぶきを目の敵にするようになりました。

 

…過去の話は終わり、いつも通り食卓を囲んでいた遊女たちでしたが、さつみが部屋に戻ると哲雄がいぶきを強姦する様子を目撃してしまい、それを見た峯(哲雄の愛人)は哲雄を激しく非難し、同時に遊女たちも哲雄を「これだけはあかんで!」とピシャリ。

 

かげろうの経営者たる哲雄が遊女と関係を持つことは許されるものではありません。峯も愛人という関係上、その様子にショックを隠しきれません。

 

しかし哲雄は開き直って「愛人?」とぶった斬った後、一瞬取り乱して部屋を暴れますが、そこに駆けつけた得太が事態の沈静化を図ります。

 

得太は自分の妹であるいぶきが強姦されていたという事実を知り、ナイフを取り出して哲雄に刺そうとします。哲雄は怖気付くこともなく自分の腹部を皮肉混じりにさし示して「刺してみろ」と言ってきたのです。

 

得太は必死に堪えたような表情で、ついに過去の真相をさらけ出すのです。哲雄と得太の父親の2人の妾と母親は愛し合っており、哲雄のいう妾のイメージとは全く異なるものでした。そして2人は部屋で心中し、それを目撃した先代当主は今際に「このことは誰にも伝えるな」という遺言を得太に託したまま絶命。つまり、哲雄はこの時点で母親から愛されていなかったことを知るのです。

 

それを聞いて表情が凍りつく哲雄。そしてその場で泣き崩れる得太。2人の憎悪に満ちた兄弟関係は全て不毛なものであったと知った哲雄は「お前も俺も鼻クソだ」と口にし物語は佳境を迎えます。

 

その後、遊女2人が哲雄に対し脂が剥がれ落ちたと表現していることから、少なくとも哲雄の中で気持ちの変化が現れたことは間違いありません。得太があのまま真実を話していなければ、これからもずっと得太を憎み続けていたでしょう。

 

最後、遊女の1人であるさつみはこれまで自分の仕事を恥じてきた遊女仕事をようやく「春を売る人」と言えるようになり、物語は終了します。

 

ーー自己感想

 

正直、ちょっと方言が混じってるのか聞き取りづらいセリフが多いです。また、SEXやレイプシーンなどの過激な性描写も含まれているため、夜に見るにはちと刺激が強かったですね…。ただ遊女という職業が社会的にヨゴレ仕事と評されていた時代に、少しずつ明日への希望を見出し気持ちの変化をつけていくという意味ではためになる映画でした。最後の「春を売る人」というセリフはそれを特に物語っていると言えます。

 

なので性描写などを除き、自己採点で言えば70点です。物語の全体像は掴みやすかったので、原爆反対のシーンは蛇足かなと思いつつ、一応最後まで見ました。偉そうですみませんが、そこそこ面白かったです。