ジャン・プルーヴェ

ー概要

 

ジャン・プルーヴェとは、およそ1930年代のフランスにおいて活躍した彫刻家・建築家・デザイナーである。初めに断っておくが、私はジャン・プルーヴェについての文献や歴史書を読んだことが1度もない。彼についてはそこまで詳しくないというのが現状である。…が、彼の工房作品に触れるほど俄然興味が湧き、深い趣を感じるようになった。元々工房には興味なかったのだが、椅子の組み立て方や負担をかけないための設計づくりなど消費者に最大限配慮したデザイナーとしての妙を感じ、筆を取るに至った。

 

フランス革命により工業化が進むと、今では見られない様々なロストテクノロジーが誕生した。この時代に誕生したほとんどの工房作品は美術館や展示館に数点所蔵されているのみで、あとは時代の流れとともに埋没してしまった。その中で、現代でも普段使いされているジャン・プルーヴェの作品といえばなんだろうか。そう、それが彼の代表作「スタンダードチェア」なのだ。原型はNo.4チェアというものらしいが。今のところ日常的に使う椅子としての目的はなく、インテリア志向の強い人が部屋を豪華に彩る内装デザインとして使う場合がほとんど。

 

ージャン・プルーヴェの哲学

 

フランス革命が起こり工業化の流れが加速すると、金属と木材を組み合わせたインテリア材が次々に誕生した。ジャン・プルーヴェもその例に漏れず、木材を解体し組み立て、金属は1度溶接してから木材と接合させ組み立てる…といった工程を踏み完成に至らせている。しかし、ジャン・プルーヴェにはある独自の哲学があった。それはなんだろうか。彼は父親の「デザイン性とは人の構想の上に成り立つもの」という思想に傾倒し、工房作品にもその影響が色濃く出ている。

 

そう、デザイン性は自分が捻り出すものではなく、構想した設計案から作ってるうちに自然と出るもの。そう定義したのだ。まさに創造性が生きた瞬間と言える。デザインは無理に考えるものではない。作ってるうちに自然とその骨格が見え始める。ほとんどの職人は工房作品を製造している間、「こういう完成形にしたいな」という構想を事前にあたためているが、ジャン・プルーヴェはむしろその真逆をいく方向性に打って出たのだ。それがかえって話題を呼び、No.4というスタンダードチェアの前身ともなる伝統的な椅子が誕生した。

 

ースタンダードチェア

 

私は直接座ったこともないし購入したこともない。…が、スタンダードチェアの深い趣は、ネット通販で見る画像からでもひしひしと伝わってくる。構造上、座る人に負担をかけないよう工夫されているのが特徴である。それを設計から何まで全てジャン・プルーヴェ1人で完結させた。まさに美術界の功労者ともいうべき人物だろう。美術というのは芸術性を思い起こさせるがまさにその通り。華美なデザインでも派手な設計でもないのにここまで味わい深い作品を作れるのは、彼の豊かな創造性が育んだゆえの結果と言える。

 

まず、スタンダードチェアの背もたれには少し後ろ向きに傾斜がかかっている。これは座る側が前かがみにならないよう配慮したためだ。肩こりや神経痛に多いのは、体を前に傾けて作業している人。それを見越した上で、後ろに体の重心が向くよう設計した。そして座面にはわずかなくぼみがある。これはクッション性を持たせるという意味ではなく、くぼみを持たせることで座る側の体とフィットさせ負担を軽減させようという構造になっている。そこまで考え尽くされているのだからもう見事としか言いようがない。

 

ー最後に

 

デザインとアートの融合。デザインは0から作るもの。そして無理に考えず、自分が設計しているうちに自然と着想を得るもの。このような独自の美的感覚を持ち、近代美術にとってもっとも影響を与えたジャン・プルーヴェの存在。スタンダードチェアの存在もそうだが、それが現代にまで受け継がれているのが何よりすごい。これは彼の創造性が今も生きているという証拠である。

 

何度も言うようだが、「デザインは自分の作業ペースに任せて、自然と捻り出すもの」この哲学は現代社会にも十分言えることだ。例えば、書籍でもなんとなくぼーっと執筆していたものが、次第に骨格的なものが出来上がり気づけば一冊の読み物に仕上がっていたと言う経験はないだろうか。アドバイスや発想は気づけば得られるもの。最初から「こういう文章にしたいな」と言う目標を立てるのではなく、まずはひたすら自分のペースに従って書いてみよう。そうすれば次第に文章の骨格が見えてくる。目標も定まってくる。ぜひジャン・プルーヴェの思想にならって実践してみてほしい。